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社説 急がれる人命救助と原因究明 マイクリップに追加

2025/02/05 社説

 1月28日午前10時頃、下水道に起因するとみられる大規模な道路陥没事故が、埼玉県八潮市内の県道上で発生した。陥没直後に走行していた2tトラック1台が転落し、70代の運転手が陥没内に取り残され、現在も消防隊による必死の救出作業が続けられている。現地の状況はTVはじめ多くのメディアで連日大きく報道されることとなり、下水道関係者はもとより多くの国民が固唾を飲んで一刻も早い救出を待っている。

 当初、直径10m、深さ5mだった陥没の大きさは、時間経過とともに徐々に拡大した。近接して埋設されている雨水ボックスカルバートも支持地盤が失われて破損し、ここから流出した雨水や、陥没箇所に流入してくる大量の汚水が、救助活動を一層困難にしている。

 陥没現場の地下には埼玉県が管理する流域下水道の汚水幹線が埋設されていた。12市町の汚水が収集される直径4.75mの大口径管路であり、およそ120万人が使用していることに加え、下水処理施設である中川水循環センターに近い最下流部のため相当量の汚水が常時流れている。

 陥没事故の直接的な要因は、今後の調査結果を待たねばならないが、映像で確認する限り、当該幹線の管頂部分は大きく破損しているように見える。破損箇所から付近の土砂が一気に管路内に引き込まれたことで陥没の拡大につながった可能性もある。

 事故の影響は広範囲に及んだ。流域に関連する12市町では、住民に対して下水道の使用を制限するよう要請した。TVのニュースでは入浴を控える、食事の工夫や洗濯等を制限して水道使用量を減らしているといった市民の反応を大きく取り上げていた。一方、人間の生理現象そのものを止めることはできないので、使用制限がどの程度の効果があったのかも今後分析する必要がある。

 県によると流域幹線は昭和58年に供用を開始したもので、42年間にわたり使用されてきた経年管である。県では管きょについて5年に1回の頻度で点検を行っており、事故現場の管きょについては直近で令和3年に調査を行っている。当時は、3段階評価のうち2番目となる「直ちに工事が必要な状況ではない」と評価していた。

 果たして大規模な陥没に至った要因はどこにあるのだろうか。

 当該幹線の破損は現状、硫化水素によるコンクリートの腐食などが考えられるものの、複合的な要因が重なって起きた可能性もある。まず人命救助が最優先であることは言うまでもないが、原因究明に当たってはたとえ復旧が急がれたとしても説明責任を果たすことが必要不可欠であるし、これが今後の事故防止につながることにもなる。

 原因究明では40年以上も経過した管路であるが、どのような材料と工法で構築されたのかを手始めに調査するとともに、汚水の滞留や硫化水素の有無、老朽化による管のひび割れや隙間の可能性、人孔の設置状況、管路埋設周辺の地盤や地質と地下水位の変化、地上においては6差路の交差点という道路条件、重車両が管路に与える繰り返し振動の影響など幅広い調査が必要である。

 一方、5年に1回とした管路の点検義務であるが耐用年数に近くなるにつれて頻度を上げるといった発想や、管路内部からの目視点検を補う管路周辺の空洞調査の実施など、維持管理のあり方についてもこれまで以上に科学的な調査方法が求められよう。

 下水道関係者にあっては、国民の快適で衛生的な生活環境を守る下水道施設が原因となり、大規模な事故を引き起こすことは本来あってはならないことである。今後加速する老朽管対策に実行力を伴う事業計画が必須である。社会貢献のため下水道の建設に一生涯をかけてきた先人たちの汗を涙に代えては決してならない。


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