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社説 多様な連携で拓け、新たな可能性 マイクリップに追加

2025/01/01 社説

 ■時代の転換点

 2024年を未来の時点から振り返った時に、どのような年だったと人々は感じるのだろうか。

 そう考えてしまうほど、大きな出来事が年明けから立て続けに起こった。震度7を記録した能登半島地震が元日に発生し、上下水道をはじめとするライフラインにも壊滅的な被害が出た。さらに翌2日には羽田空港で旅客機と航空機が衝突、炎上。夏には災害級とも言われるほどの異常気象に見舞われ、西・東日本で過去最も暑い9月となり、10月になっても都心で真夏日を記録。各地で豪雨災害も頻発した。

 そんな中で、4月1日には上下水道審議官グループが国土交通省内に発足した。この水道整備・管理行政の移管は、昭和32年に下水道を建設省が、水道を厚生省がそれぞれ所管することとなって以来、67年ぶりの大転換となった。上下水道が一体的運営されるメリットの一つとして、その相乗効果を生かし、災害時の早期復旧や維持業務の効率化が上げられていたが、上下水道ともに管路施設の被災規模が甚大であった能登半島地震では、下水道の機能確保を図るため応急復旧を優先する方策が取られ、このことが被災地の迅速な復旧に少なからず貢献した。

 能登半島地震は移管前の出来事であったが、上下一体での復旧は、使用する住民の目線に立って、まず上下水道サービスの「持続」を重視したからこそ成功したとも言える。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の計画期間も最終年度に入った。国民の生命と財産を守るため、能登半島地震の教訓を糧として次なる災害への備えをしていくことが、上下水道関係者の、いやわれわれ日本人に課せられた使命であることに異論を挟む余地はないだろう。

 ■迫る目に見えぬ課題とその解決

 地震や風水害といった激甚化する自然災害との戦いが目に見える課題であるとすれば、人口減少や少子高齢化、増加する老朽化施設への対応という課題は音もなく確実に迫る。

 国は11月末、「上下水道政策の基本的なあり方検討会」を設置した。検討会では長期的な視野から2050年の望ましい社会の姿を描きつつ、これに対する今後10年程度の上下水道の基本的な方向性を示していくとしている。同検討会は能登半島地震の影響を受け後ろ倒しになったと聞くが、地震で得た教訓を盛り込むとともに、脱炭素や経済・食料安全保障といった多様な社会要請に応え、その中で上下水道がどのような姿であるべきかを議論していくことが見込まれる。下水道事業は人々の生活に不可欠な水インフラゆえ、国民生活、安全保障という大局観からのあり方検討に期待したい。

 例えば人口減少は下水道事業の原資である使用料収入に直結する。汚水処理施設整備は令和8年度の概成を目指しているが、効率的汚水処理サービスの提供のため、ダウンサイジングや統廃合を含む施設更新が課題となる。それらの処方箋の可能性を持つのが、手段としての官民連携やDXであろう。ウォーターPPPに代表される官民連携は持続可能な上下水道を構築する手立てとして有効だ。6年度補正予算ではWーPPPの案件形成支援費に11億7600万円が計上され、63都市が採択されている。 

 官民連携で重要なのは民に全てを任せるのではなく、同じ目線に立ち課題に立ち向かうことだ。まずは大前提として自らの対象施設を客観的な情報として把握し、説明できることから始まる。官の縦割りが、民の負担にならないよう、WーPPPの枠組みを追い風に、官×民、あるいは民×民の融合組織が躍進することを期待したい。

 ICTを利用した維持管理、AIやロボットによる自動化(遠隔操作)等による人手不足や経験不足を補う時代が始まっている。AIによる管理には施設や管路のデジタル化が必須となる。技術は使われて初めて生きるものであり、単に効率化や省力化にとどまることなく、現状の課題を解決するために何が必要か、何を求められているかを考えなくてはならない。

 汚泥のエネルギー化、そして下水汚泥からのリン回収をはじめとする肥料化は、下水道が循環型社会の主役へと躍り出る鍵となる。前者には2050年のゼロカーボン、後者には肥料の国産比率を高めるという大きな目標がある。これら課題の解決にも技術力が求められているが、どんな手段にせよ、技術は人から人へと受け継がれていくものだという視点は忘れてはならないだろう。

 ■原点に立ち返り、その先を

 これら課題に直面する今こそ、公営企業の原点に立ち返り、その精神と存在意義を見つめ、後世に引き継ぐ仕組みを再構築すべきだ。そのためには、あらゆる分野との連携を進めなければならない。多様な連携から得られるセレンディピティな世界観が、下水道の新たな可能性を惹起するかもしれない。

 2025年は乙巳(きのとみ)の年。「乙」は未だ発展途上の状態を表し、「巳」は植物が最大限まで成長した状態を意味する。この組み合わせは、これまでの努力や準備が実を結び始める時期を示唆している。願わくは、今日から始まるこの年が、下水道関係者のこれまでの努力が「結実」する、健やかな年になることを心から願いたい。


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