社説 新時代へ 序章の一年 マイクリップに追加
■難局越える策
物価高騰、エネルギー受給の逼迫、3年間に及ぶコロナ禍。下水道事業にとどまらず社会は依然として難局の途上にある。
一回り前の卯年は2011年。東日本大震災という未曾有の災禍を経験した。エネルギー、物流、そして下水道をはじめとするライフラインが途絶え、日常が当たり前では無いことを多くの国民が認識させられた。その中でも被災地に人、物、資金が集まり、国を挙げた復旧・復興への力が希望を未来へと繋げている。
今を生きるわれわれは、当たり前に対して徐々に生じるほころびに直面している。国内の人、物、資金が細りゆく中、その光明を新年の願いとしたところで立ち行かなくなるだろう。インフラ産業という実体経済に関わるわれわれこそがその現実を実感している。
こうした状況を漫然と迎えた訳では無く、危機を認識しながら、手は打ってきたのだろうか。人口減少や施設の老朽化という確定している未来に備え、ストックマネジメント、広域化・共同化、官民連携そしてデジタル化という手段を通じて、将来に備えた布石は打ってきているが、自助のみでは限界があり、スピード感を持った展開は難しい状況にも映る。
将来に向けたサプライチェーンの構築へ、進化の歩みは容易ではない。事業像を明確に持ち、発信し、すべての関係者が連携しながらガバナンス体制の構築と実践を前に進めていくことが必要となっている。
■今こそ描く未来像
目下の下水道界の最大のトピックは、国土交通省にて下水道行政と水道行政を一体で所掌する方針が決まったことであろう。
水道行政の移管が本質的な取組みでありながら、下水道界を賑わすのは、政策の上流とも言える国の体制の変化がもたらす影響、底流に存在する水道・下水道の親和性を認識しているからであろう。新たな枠組みの始動は令和6年4月を予定している。
昭和32年の水道行政三分割以来、67年ぶりの大きな変革が日本の水行政にもたらす影響は決して小さくない。その受け皿として国交省の下水道行政が中心的役割を果たしていくことが有力視され、人、そして事業への考え方が交わり、方向を定める。これからの一年間は、新たな時代への序章となる。だからこそ下水道と水道が一体的な歩みを始める前の準備が肝要となる。
いかなる時代が到来しようとも、都市の健全な発達、公衆衛生の向上、公共用水域の水質保全という下水道法が掲げる三つの目的に応じた社会を構築していくことこそが人の命と営みを支え、地域や国の活力の基礎となる。下水道が存在しない未来はあり得ない。
下水道の公共性を大義にした要望や動きだけでは、もはやこの難局は乗り切れない。時代変化に応じた公共性へと下水道界が能動的に臨む議論が期待される。その議論が導き出した先に「持続」を可能にする「進化」がある。
脱炭素の潮流とともに、下水汚泥の肥料化を可能な限り拡大していくという方向性は、これまでの下水道システムのあり方を大きく変えていくだろう。加えて、昨年4月に施行された瀬戸内海環境保全特別措置法の改正によって動き出した地域ごとの栄養塩類の管理という考え方は、水環境管理という新たな時代の下水道のあり方を大きく前に進めた。
8割を超えた下水処理人口普及率のもと、マンパワーが確実に不足していく現実から目をそらさず、フルモデルチェンジも視野に下水道資産を未来へ、より良い形で残し、進化させていく未来像を議論しよう。
事業分野の融和を見通しつつも、下水道への強い思いを持った者がいる今しか描けない未来がある。下水道界が希望を語り合える一年としたい。