社説 変革の時代へ一歩を刻む マイクリップに追加
令和6年が幕を開けた。今年は、陽の気が動き万物が振動するとされる甲辰(きのえ・たつ)。「成功という芽が成長し、姿を整えていく」といった縁起のよさを表している。水や海の神として祀られてきた龍は、十二支の中で唯一、想像上の動物。竜巻や雷などの自然現象を起こす大自然の躍動を象徴するものであり、「龍が現れるとめでたいことが起こる」とも伝えられてきた。下水道資産を再構築し、より良い形で遺していくため、想像の龍を「創造」へと変える時が来た。今こそ一人ひとりが「持続と進化」の方向に舵を切り、躍動感をもって進んでほしい。
■強靱化の時代
水道行政の国土交通省・環境省への移管は、4月1日からの施行に向けて確実に進んでいる。国土交通省は下水道部の現行の2課1官体制に水道を担当する組織が加わる形となり、地方整備局、国土技術政策総合研究所においても新たに水道機関が設置されるなど、上下水道一体の体制を構築する。
これまで60年余にわたり水道行政を担ってきた厚生労働省の組織見直しは、水道事業の経営基盤強化、老朽化や耐震化への対応、災害発生時における早急な復旧支援、渇水時の対応等の課題に対し、機動力の向上を図りつつ上下水道界が一体となって国民の安全・安心をより高めるものだと考えられる。国土の基盤整備の時代から、持続可能へと導く強靱化を図る時代を迎えたとも言えよう。
■人口減少下のインフラ
人口が減り続ける中、官も民も人材確保が避けて通れない問題だ。自治体で技術職員数の減少が著しく進む中、その解決策として期待される官民連携で大きな動きがあった。政府のPPP/PFI推進アクションプランにおいて、「ウォーターPPP」が打ち出され、多くの関係者が注視している。令和13年度までに100件の具体化が導入目標として掲げられ、令和9年度以降の汚水管の改築への交付要件ともなるなど、下水道事業の現場ではその対応が進められる。
一方で、担い手となる民間側も人材不足は深刻な課題だ。建設業に例をとっても、平成4年に600万人を超えていた建設業労働者数は現在、480万人余。およそ四半世紀後の令和27年には日本の総人口も1億人を下回り、建設業者に限っては現在の半分まで減少すると予測されている。日進月歩で進むDXの動きを官も民も学び、かつ応用し事業効率化の一助とすべきだ。
ただ、これらDXをはじめとする技術は、そこに人の知見やノウハウが宿って初めて有効と成り得る。デジタル化は目的ではなく手段であり、その目的に働き方の変化を見据えて取り組むことが一層重要となる。技術革新は、単なる長寿命化や耐震化といった単一視点だけでなく、持続可能な地域社会へつなげられる複眼の視点が理想だ。その際に市場に魅力がなければ、産業構造は縮小の一途を辿る。下水道事業も新技術を導入しやすいさらなる制度設計をはじめ、技術のPDCAサイクルを循環することのできる環境を早期に構築すべきである。
■変革へ漕ぎだす羅針盤は
自治体で発生する汚泥の処理方法を原則肥料化とする方針が打ち出された。今一度、この機会に下水道に眠る資産の可能性を見つめ直す時である。下水道事業のさまざまな魅力を発信し、担い手確保と環境整備につなげるチャンスでもある。
四月からは水道行政移管がなされるが、都市の健全な発達および公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用水域の水質の保全に資するという下水道法の第一条にある下水道事業の本質を見失うことのない、上下水道一体体制の新たな出発点となる。
衛生国家にふさわしい、安心と安全を追求した国民目線に立った公共政策と行動指針の先導に期待したい。