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社説 国民目線で果敢な政策を マイクリップに追加

2024/04/03 社説

 国土交通省における下水道ならびに水道の一体所掌という政府方針は、上下水道界にとって寝耳に水であり、まさに青天の霹靂である。あれから19カ月間が経過、多くの下水道関係者はその大きなうねりによってもたらさせる変化の兆候を冷静に注視してきた。

 この間は、国の下水道行政そのものにも大きな前進が生じた期間でもあった。

 例えば、下水汚泥の原則肥料化の方針、ウォーターPPPの創設、そして想定外であったものの能登半島地震への対応がその最たる節目と言えよう。

 ■原則肥料化の先に

 2023年3月、国土交通省は下水汚泥の処理について、〝原則肥料化〟を図る方針を示した。

 下水道事業者にとって、下水汚泥の処理・処分は、汚水処理技術と同様に重要と捉えている。下水道が公衆衛生と水環境を維持する使命を果たす一方、その最終副産物として発生する汚泥を適切に処理すること無しには下水道システムは完結できない。

 確実な汚泥の処分方法を確保して、環境へのリスクの最小化を図るために、水処理工程での減容化や汚泥焼却というプロセスが取られてきた。

 今回の従来の流れに反して、発生汚泥等の処理に当たって肥料としての利用を最優先かつ最大限利用していく原則肥料化は、カーボンニュートラルに向けた国の方針となった。一方、呼応する各地方公共団体の方針にも合致することが求められる。

 カーボンニュートラルは、社会、人類や生物の持続可能性にかかわるだけに避けては通れない施策である。地域の資源循環やエネルギー負荷の低減、経営の健全化等へのシナジーも期待されている。

 下水道の髄たる汚泥の処分についても、温暖化対策の動向によって適切な対応が求められていく。この変化が国策となることで、技術開発が促進され、ボトルネックとなる共通課題の解決への道も拓かれるべきである。

 ■ウォーターPPPの効用

 官民連携の潮流にも大きな変化があり注視されてきた。

 多くの下水道管理者にとって着実に取り組むべき方向性であった官民連携が、実現すべき目標へと転換した。

 国交省は、令和9年度以降の地方公共団体の汚水管の改築に係る国費支援について、〝ウォーターPPP〟の導入が決定済みであることを要件化している。

 こうした背景もあり、現状のウォーターPPPの検討は、官民連携に前向きな下水道事業者であるとともに、一方で国費支援に関わることから、汚水管の改築補助に緊急性を要する事業者で先行して進められる傾向がみられる。

 地方自治の財政と現場、さらに地域の現状を踏まえると、多くの地方公共団体が従来の延長で下水道事業を維持していくことに不安を抱えている。

 人口減少社会の下で、過去から引き継いできたインフラの恩恵を最大化し、課題を解決していくためには、官民の総力で臨んでいくことがウォーターPPPに求められている。

 加えて、下水汚泥の原則肥料化や地域のカーボンニュートラル等の社会課題に下水道管理者のノウハウのみで対応していくことには限界がある。

 担い手に対する危機意識は、国と地方が一層強く共有しなくてはならない。地域において建設業、施設管理をはじめとする〝エッセンシャルワーカー〟を民間が組成する体力は脆弱化しているのではなかろうか。

 解決の鍵を握るのは、下水道を維持するために必要な手法を明確にし、それを実現するための資金と人材を確保していくことに尽きるのである。

 近未来の下水道のあるべき姿を描き、そのために必要な具体策を打つことが下水道事業者の責務として求められている。

 国費要件がスタートであろうとも、ウォーターPPPの推進という一つの方向性は、必要な資源を調達し、持続させていかねばならないという責務を、全ての下水道管理者に突きつけているのである。

 ■〝上下水道一体〟のシナジー

 よもやの元日に発生した能登半島地震からの復旧過程は、社会資本としての下水道インフラの大切さを改めて認識することとなった。すなわち下水道システムの強靱化のさらなる必要性とともに、今後一層求められていくであろう〝上下水道一体〟でのシナジーに向き合う最初の出来事となった。

 下水道・水道ともに管路施設の被災規模が甚大であり、行政移管を見据えた下水道・水道の同時復旧対応を国交省が先導する中で、〝上下水道一体〟のシナジーの意義にリアリティを持たせたともいえる。

 被災地では、地中インフラの特性上、地盤条件によって、下水道・水道の双方のインフラが同じ地域で被災を受ける場合が多かった。水道は、電力と同様に、供給インフラとして被災者から復旧を強く待ち望まれるインフラであった。被災者の窮状において、使ったあとの水に思いを巡らすことは難しい。そうした中、国の指示のもとで水道の通水が、下水道の支障によって遅れることがないよう、災害査定の調査よりも下水道の機能確保を図るための応急復旧を優先する方策が取られた。

 下水道の早期復旧を志向しつつも、優先順位が高いのは、被災者の安心な暮らしである。下水道は、本復旧に遅れが出ようとも、被災者の目線に立ち、縁の下の力持ちに徹することができた。

 下水道、水道のそれぞれ業界内における慣例と常識の中で、気づけなかった国民との隙間があった。能登半島地震は、〝上下水道一体〟のシナジーの解が、国民目線の志向であることを教訓として与えてくれたといえる。

 ■総力を大きく

 わが国における下水道は、〝水道〟の名のもとで衛生行政をルーツにスタートし、その後、建設省の都市行政としての歩みの中で〝下水道〟の魂を地方公共団体に注ぎ込んだ。下水道と水道の二つの道が軌を一にし〝上下水道〟として再び歩みだす。

 上下水道一体所掌に至る19カ月の下水道の変化は、下水道の価値と課題を再考する好機となった。

 下水道は、国民のくらしと地域の営みに必要不可欠な存在であるからこそ、これまで以上に国民に寄り添うことでその価値と役割への理解を一層高め、〝上下水道界〟の総力を今以上に大きくすべきである。

 上下水道審議官グループという、下水道行政がかつて経験したことのない組織のスケールを生かし、国および国民の益に資する政策を思い切って展開すべきである。


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