日本下水道新聞 電子版

2022年914日 (水) 版 PDF版で読む 別の日付を表示
2022年914日 (水) 版

社説 下水道の目的 再認識を マイクリップに追加

2022/09/14 社説

 ■親和性とは何か

 法律の多くは、第一条にその法の目的、趣旨が書かれている。

 下水道法第一条によると下水道整備の目的は「都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用水域の水質の保全に資すること」である。

 水道法第一条では、水道の布設、管理、基盤強化の目的として「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与すること」が示されている。

 下水道行政と水道行政は、令和6年度から国土交通省水管理・国土保全局のもとで一体的に所掌されることが有力となった。水道水質に関する一部業務は環境省が担うが、実質的には国交省が下水道・水道の双方を所掌する体制となる。

 コロナ禍での厚生労働省にあって移管も止むなしなのか、一般認識としても下水道と水道の親和性の高さを指摘する意見がある。「上下水道」という言葉がこの親和性を象徴している。

 しかし、国の行政再編という大きな節目を迎え、現代において無意識に用いる上下水道という概念には違和感がある。

 水処理、管路整備、加えて水道の利用状況に基づき下水道使用料を算定、徴収するという業務の共通点の中で、自治体が運営する事業としては合理的、一体的に取り扱われ、現状の概念が一般化していったのだろう。

 漠然とした親和性の認識に対して、下水道を生業とするわれわれが目的の相違をしっかり捉えなければ、一体所掌の流れにおいて、合理性や短期的な経済性が優先され、下水道の目的に示される確固たる公共性を見失いかねない。

 ■社会環境と組織

 法目的からも下水道法、水道法の共通点が「公衆衛生の向上」にあることは揺るがない。明治期、衛生二大事業とも称され、国および自治体の多くで両行政が歩みを共にしたが、普及拡大の気運が高まる中でその袂を分かつことになった。

 決定的な分岐点は、昭和32年の水道行政三分割であった。上下水道を一体的に「水道行政」と括りながらも、厚生省と建設省の共管という状況の中で、両省の有り余る力と急速な経済成長という社会背景が両省において引っ張り合う状況を招き、水道、下水道、工業用水道の分割が不可避となっていった。さらに下水道行政は、昭和42年まで管きょを建設省、処理場を厚生省が所管する体制が続いた。

 この詳細は「日本下水道史ー行財政編ー」(日本下水道協会発行)に記されており、この経緯を「事実に基づいて正確に知ることの歴史的意義は下水道行政の歴史の流れを知り、その将来を思い巡らすうえからきわめて意義深いこと」と付記している。

 同書では、分割という帰結を受け止めながら、当時の関係者の一元化という理想の共通性、将来変化への展望がうかがえる。つまり、組織のあり方は、理想よりも社会背景が色濃く現れることを一つの教訓として示唆している。

 分割後に制定された現行法の源流となる昭和33年立法の下水道法では法目的を「都市の健全な発達及び公衆衛生の向上」とした。昭和42年の「下水道整備緊急措置法」の制定と昭和45年の公害国会における下水道法改正を通じて、法目的に「公共用水域の水質の保全」を追加し、冒頭に示した現行法に引き継がれる公衆衛生、都市の健全な発達、水質保全という三つの目的の柱が確立されている。

 ■管理の時代へと

 水道行政三分割によって生まれた建設省下水道課は、昭和46年に下水道部に昇格。平成13年の中央省庁再編で国土交通省の所掌となった。厚生省水道課は、昭和49年に廃棄物行政と統合して水道環境部となるが、同じく中央省庁再編で厚生労働省が水道課として所掌することになった。

 水道行政の移管先として有力視される水管理・国土保全局は、平成23年7月、河川局に、都市・地域整備局の所管だった下水道行政と土地・水資源局の所管だった水資源行政が統合されて誕生した。

 水管理・国土保全局への改称は、所掌する対象施設ではなく、行政目的を明確化させることが狙いの一つだった。同局が河川行政に大きな比重を置いていることは、本紙読者の知るところであろう。

 河川行政の根幹となる河川法の第一条の法目的には「国土の保全と開発に寄与し、もつて公共の安全を保持し、かつ、公共の福祉を増進すること」を示す。

 注目したいのは、目的を果たす手段を「総合的に管理する」としていることだ。河川行政は、施設整備や普及を手段として明記せず、半自然公物として近代以前に整備された河川を管理し、社会で生じる課題とともに所掌の網を広げながら、時代に応じた展開を図ってきた。

 下水道の未普及解消は、令和8年度で一定の区切りを迎える。水道は、平成の初頭に国民皆水道を概成させ、令和元年の法改正で水道法の第一条に、目的を果たす手段として「水道の基盤強化」を追加した。

 まさに今ある水インフラを管理する時代へと展開していく上で、水を管理し、国土を保全する方向性、強靱化のための事業基盤の強化は、時代の要請に応える解になる。

 ■水インフラの価値

 水道行政移管の受け止め方は十人十色だ。国交省水管理・国土保全局における下水道行政との一体所掌は、社会環境がもたらした現在の一つの帰結であるとともに、長い目で見れば未来への通過点であるように見える。

 社会インフラが共通して直面する人口減少、老朽施設の増加、気候変動という必然性を持った課題解決のため、人の交流を深めて関係者の叡智と持ちうる手段を融合させ、親和性も最大限に発揮しながらともに挑むべきだ。

 地震国かつアジアモンスーン地域に位置し、エネルギー資源や用地の制約が大きい我が国特有の事情を抱える中、下水道は引き続き、公衆衛生、都市の健全な発達、水質保全という目的のもと、浸水対策・地震対策などの国土強靱化、脱炭素化、持続可能な地域・社会づくりに貢献する多様な挑戦、公共の便益に資するアプローチを続けていくことが使命である。下水道の目的を再認識し、未来へと邁進していくことが、下水道の価値、そして水インフラの価値を高めていくものと考える。


この記事を見た人はこんな記事も見ています

社説の過去記事一覧

×
ようこそ、ゲストさん。
新規会員登録 ログイン 日本下水道新聞 電子版について