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2022年11日 (土) 版

社説 逆境の中に原点回帰を マイクリップに追加

2022/01/01 社説

 コロナ禍というかつてない危機に世界中が直面し、社会が大きな変革を余儀なくされる中で、わが国では市民に不可欠な生活インフラである下水道事業においても、ウィズコロナ、ポストコロナ時代に相応しい政策展開が求められている。

 国の下水道予算は、ほぼ横ばいで推移しており、ここ数年は国土強靱化に向けた特別の予算が上乗せされてきた。一方でその執行は多岐にわたり、一つひとつの政策に対して十分に手当てされているのだろうか。アドバルーンを上げる政策も必要だが、下水道基幹施設の着実な更新もますます重要になってくるだろう。

 下水道事業の重要施策を支えるのが財源であるが、昨年末に閣議決定された政府の令和4年度予算案では、地方公共団体の下水道事業への支援の柱となる社会資本整備総合、防災・安全の両交付金は1兆3973億100万円を計上、これに「16カ月予算」として一体的に編成された「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の2年目の対策費となる令和3年度補正予算が上乗せされる。

 社会資本整備総合交付金は3年度予算額から0.92倍の5817億3100万円、防災・安全交付金は0.96倍の8155億7000万円を計上した。前年度の当初予算額との比較では、いずれの交付金も減額となったが、省全体の流れとして交付金の一部を個別補助へと切り出していることが影響しているとみられる。国土強靱化が大きな政策テーマとなる中、集中的・計画的な支援が可能な個別補助化は今後も続くだろう。

 下水道分野では、個別補助制度の「下水道脱炭素化推進事業」を創設。温室効果ガス排出量の46%削減を掲げた2030年目標、そして2050年カーボンニュートラルに向けた目玉制度の一つとなる。内水浸水リスクマネジメント推進事業、下水道情報デジタル化支援事業といった新規制度が創設され、下水道広域化推進総合事業、下水道整備推進重点化事業といった既存制度も拡充された。いずれも地域活性化の礎となる生活インフラの持続に向けて必要なものであり、一定の評価が得られたものと考えている。

 衛生的な国民生活の維持に、密接に関わる下水道は、一日たりとも止めることが許されないエッセンシャルサービスであり、高い公益性を持つ事業である。だからこそ、下水道事業の実施に必要な財源の一部は補助金という形で国が負担している。

 しかしながら、国債発行残高が今年度末には1000兆円を超えることが確実視され、国全体の財政状況が厳しさを増す中では、自立性を持って事業を継続し、経営の健全性を維持していかねばならない公営企業だということを改めて肝に銘じる必要があるのではないか。サービスを持続させるために必要な下水道使用料水準の設定もその一つだろう。環境や安全を担保することはタダではない。利用者に対して、これらサービスを持続するために必要な対価を求める努力を怠らず、経営体力があるうちに自立基盤への道筋を探らなければならない。

 さらには地域経済を支える役割を担っていることも認識したい。数多ある公共事業の中でも、下水道は特に地域経済と密着に関係している。下水道事業経営がおぼつかず、その事業量が一定程度確保されないことには、地域経済にとって大きな打撃となり、下水道に参入している企業が事業の縮小、撤退することすら考えられる。下水道界全体の経営資源が縮小し、サービスの持続どころではなくなってしまう。

 人口減少・少子高齢化、激甚化する自然災害との戦い、増加する老朽化施設への対応という多くの課題に直面する今こそ、公営企業の原点に立ち返り、その精神と存在意義を見つめ、後世に引き継ぐ仕組みを再構築すべきだ。

 2022年は十干が「壬(みずのえ)」、十二支「寅」の年に当たり、干支は「壬寅」である。「壬寅」は厳しい冬を越えて芽吹き始め、新しい成長の礎となることを表している。

 日本国内では、新型コロナウイルスの感染拡大によって社会のあり方が一変している。テレワークの普及によって働き方が大きく変わり、デジタル技術によってビジネス構造を変革させるデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速が掲げられている。令和時代として初めて元旦を迎えた2年前には、誰がこの景色を予想したであろうか。

 コロナ禍は社会環境を一変させた。その反面、公衆衛生への貢献や下水道そのものの真価が再認識されるなど、全てがマイナスに作用したわけではない。人口減少、少子高齢化の加速により、省人化・省力化や広域化・共同化、資源循環化といったこれからの社会に照らしたシステムの再編が求められる。国難の渦中だからこそ、半世紀以上にわたり下水道の動きを報道し続けてきた専門紙として、逆境に立ち向かう担い手となり、英知と行動力の熟成に向けて読者とともに下水道界の未来を考えていきたい。


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