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2021年11日 (金) 版

社説 コロナ後の上り坂へ マイクリップに追加

2021/01/01 社説

国土と国民守る強靱化

 2020年は、「新型コロナ」一色に染まった。政府による4月の緊急事態宣言の発出や東京オリンピック・パラリンピックの延期など、目に見えない敵に翻弄された1年であった。不透明かつ不安定な社会情勢は今なお続く。人生には三つの坂があるといわれているが、まさかの時代に突入している。欧米諸国では感染第三波によるロックダウンなど社会経済活動の制限措置が再度行われている。日本でも感染者数が日を追うごとに過去最高を更新している。今や国内感染者数は20万人を超え、緊急事態宣言直前よりもさらに深刻さを増している。

 一方、目に見える災害では、平成30年7月豪雨、令和元年東日本台風、令和2年7月豪雨など気象災害は激甚化の一途を辿っている。これまで、下水道では局所的な短期間の豪雨にいかに対応するかが課題であったが、近年は広域的かつ長時間にわたって降り続く豪雨が頻発化する中、被害が予測を超える領域にまで広がっている。

 国は国民の生命と暮らしを守るためにコロナ禍であっても、国土基盤の強靱化に向けて揺るぎない姿勢で取り組んでもらいたい。幸いにも下水道事業はエッセンシャルワーカーにより安定的に運営されて、衛生的な暮らしを守り続けている。また、下水中に含まれるRNAを検出し、社会経済活動に役立てる下水疫学にも注目が集まった。

 政府は昨年末、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を閣議決定した。5年間の事業規模は15兆円で、大規模な水害や地震災害への対策に加え、新たにインフラの老朽化対策とデジタル化推進を盛り込んだ。下水道関係では、浸水実績地区等における浸水対策、重要施設に関連する管路や処理場などの耐震化、緊急度I判定となった老朽管路の改築を加速化させていく。初年度分は、2年度第3次補正予算で措置し、3年度予算と一体的に編成する「15カ月予算」を掲げ、切れ目のない対策を進める。

人口減少下の持続と成長

 国土交通省の3年度予算案では、社会資本整備総合交付金に6311億2800万円、防災・安全交付金に8539億8400万円を計上した。2年度当初予算比では、交付金はやや微減となったが、国交省全体の公共事業関係費は5兆2586億9800万円で、ほぼ前年度と同額となっている。加えて2年度3次補正予算が上乗せされたことで、公共事業関係費は2年度予算額から1.37倍の7兆1929億3600万円、交付金は1.34倍の2兆254億4100万円となった。新規施策では「下水道浸水被害軽減総合事業の拡充」「官民連携浸水対策下水道事業の創設」「改良復旧事業の創設」「下水道総合地震対策事業の拡充」「下水道地域活力向上計画策定事業の拡充」などが認められ、防災・減災、国土強靱化を柱としつつ、人口減少社会の進行をにらんだ下水道サービス持続に向けた政策転換に軸足を移してきている。

 政府全体に目を向けると一般会計総額は106兆6097億円と過去最大規模に達している。市井では批判の声もあるが、長期化の様相を呈している新型コロナ対応に向けた集中投資であり、否定するものではない。一方で、新規国債発行額が43兆5970億円となり歳入全体に占める国債の割合が40%を上回った。今は民需主導の成長軌道に戻すため巨額の投資が行われているが、コロナ禍が収束すれば財政健全化へと舵を切らざるを得ないだろう。いみじくもコロナ禍によって「エッセンシャルワーク」である下水道の価値が再認識されつつあり、いかなる条件下でも、衛生サービスを持続・成長・発展させていく普遍的な事業体質へと切り替えていかねばならない。

民需喚起へ産業界育成を

 5か年加速化対策については、経済再生のけん引役として期待されているが、一過性となる可能性も考えられる。民需主導の成長軌道に乗せていくために、国は産業界への育成にも力を注ぎ、脱炭素化など未来志向型システムへの転換など業界全体で取り組む環境整備を構築する一方で、PPP/PFIの導入など民間の成長を促す事業基盤を構築し、下水道分野から経済の好循環を先導してほしい。

 コロナ禍で不透明で不安定な社会情勢だからこそ、エッセンシャルワーカーとしてテクノロジーとノウハウを磨き続けつつ、ポストコロナへの希望に向けた上り坂を描いていきたい。


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