社説-八潮市道路陥没事故から1年- 手付かずに向き合う時 マイクリップに追加
日本で最後の事故に
昨年1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、走行中のトラックが転落し尊い人命が失われるという、下水道インフラが直接的に社会の安全を脅かす事態となった。破損した下水道管路には汚水が流入し続け、120万人の県民に下水道使用制限を要請する異例の対応を余儀なくされた。陥没が拡大していく様子がリアルタイムで伝えられたことも相まって、国民に与えた衝撃は極めて大きい。
下水道管路の破損を起因とする道路陥没は年間約2600件発生しているが、100万人単位という一つの大都市に匹敵する規模の使用制限を伴う事故はかつてないものだ。下水道が「止められないインフラ」であり、日常生活と都市機能を根底から支える真のライフラインであることを、改めて社会に突き付けた。
1月20日の定例記者会見で、埼玉県の大野元裕知事は「大規模下水道は点検調査・維持修繕の手法が確立していない。(点検調査で状態が確認できない以上)何年持つか分からない。改築更新も現状の日本の技術ではできない。手法の確立が急がれる」と現状の課題認識を述べるとともに、今回の痛ましい事故を「日本で最後の事故に」との決意を語った。
その決意を成し遂げるためには、課題を課題のままにしておかないための努力が不可欠だ。
それにはなぜこのような事故が起きてしまったのかを突き詰める必要がある。点検困難箇所の選定指標や調査点検後の対応、調査および管理記録の共有化など維持管理体制の検証とともに、事故現場周辺のみならず処理区全体の硫化水素発生状況や腐食進行のメカニズムなど、科学的知見に基づいた原因究明を急ぐべきだ。そしてこれらを教訓として再発防止や発展的改善に努め、持続可能に向けた下水道インフラの基盤強化につなげたい。
課題乗り越えるエンジンは
事故対応やその後の全国特別重点調査を通じて、AIによる異常検知、ドローンやロボットを活用した点検など、情報通信技術の有効性が現実のものとして認識されつつある。
管路管理の新たな方向性が示される中で、新技術の導入実装に向けた環境整備、技術基準等の見直しが今まさに正念場を迎えている。国が示す羅針盤に対し、行政、産業界でも前向きな議論が進んでいる。
もともと飛行式ドローン自体、10年ほど前にはすでに一部のプレイヤーが管路管理への実装を見込んで草の根的に普及へ着手していた。
主流化にはなかなか至らなかった理由として、その先進性に心を惹かれつつも、技術的なハードル、設計積算・調達環境の未整備という課題への対応が挙げられる。さらに、そもそも本腰を入れて向き合う下水道関係者が稀有であったのが大きな要因ではないかと考える。
そういった意味で今回の事故は、下水道管路の老朽化問題を示すにとどまらず、目を逸らすことのできない社会リスクとして提示し、そのリスクに対し向き合う主体が誰なのか、そして誰が当事者なのかを明確にした。主体が明確なものとなれば、これまで手付かずだった課題を乗り越えるエンジンになり得る。
八潮の事故を単なる不幸な出来事で終わらせるのか、それとも持続可能な下水道インフラのあり方を根本から見直す転換点としていくのか。社会から突き付けられた問いに、各主体が連携して答えを示していくことが、今まさに求められている。