社説 未来への視野で進化と持続を マイクリップに追加
■国民レベルでの認識
昨年1月28日、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、走行中のトラックが転落し、尊い人命が失われる痛ましい事故となってしまった。絶え間なく流入する汚水に対して120万人の県民が下水道の使用制限を余儀なくされ、今なお日常生活に影響を及ぼしている。何より、刻一刻と陥没が広がる光景をリアルタイムで目の当たりにしたことは、大きな衝撃となった。下水道管路の破損を起因とする道路陥没は年間2600件に上るが、このような大規模な事故により、下水道が止めることのできないインフラであり、生活に欠かせぬ「ライフライン」であることを改めて認識したのではないだろうか。
発生から2年が経つ能登半島地震も未だ傷は癒えず、復旧・復興に向けた取組みが現在も続いている。こうした状況の中で、インフラの強靱化とともに「メンテナビリティ」や「リダンダンシー」の視点が改めてクローズアップされている。
■本来目指すべきものは
2024年11月に発足した「上下水道政策の基本的なあり方検討会(あり方検)」は、2050年の社会経済情勢を見据え、強靱で持続的な上下水道システムへの進化、これまでの歴史を踏まえつつ、これからの時代を照らして事業の基本的あり方まで踏み込んだ検討を行うものであったが、能登半島地震や八潮市での道路陥没事故など、大規模事故・災害に注力せざるを得なくなった。
水道行政移管から3年目を迎える2026年は、歴史認識と未来創造を柱に十分な議論を果たし、持続・強靱・進化に向けたこれからの上下水道システムのあるべき道筋が示されることを期待している。事業主体である地方自治体の実情や方向性といった地域の未来を見つめつつ、老朽化、肥料化・資源化、脱炭素などの施策を含め、水循環・水環境管理といった未来社会に求められる下水道の持つさまざまな可能性を追求していってほしい。
ただ、進化の歩みを緩めているわけではない。八潮市道路陥没事故によって、調査・点検技術の重要性や復旧を円滑に進めるためのAI解析、ドローン点検、ロボット巡回などDXの有用性が明らかになった。
能登半島地震においては災害支援で台帳が電子化されていることが早期復旧を進める鍵となった。国土交通省では第3次提言の統合マネジメントにおいて、「維持管理を起点としたマネジメントサイクルの標準化」を進めているが、その起点として施設情報と維持管理情報の電子化は極めて重要な視点として、DX化の推進を強調している。
制度面では、民間企業のノウハウや創意工夫を活用した官民連携(PPP/PFI)の活用が求められている。政府のアクションプランでは、コンセッション方式または管理・更新一体マネジメント方式「水の官民連携」(ウォーターPPP)の導入について、令和13年度までに100件の具体化のほか、導入決定が9年度以降の汚水管の改築に対する国費支援の要件となることが掲げられた。
先日開かれたあり方検の第2次とりまとめ案では、複数自治体による一体的事業運営の具体的方策として広域型の水の官民連携が位置付けられている。広域連携との整合性を取りつつ導入検討を進めていくことが新たな道筋となるが、中でも官と民の役割・責任の明確化、社会情勢の変化に対する柔軟性、さらには地域に根差す企業の参画・育成も視野に入れたい。災害など緊急時に迅速な対応を可能とするのは地域の企業であり、経済・環境など持続可能な地域の実現へ重要なファクターとなろう。連携とは同じ目線に立ち、共通の課題に立ち向かうことである。地域が求めているものは何か、それを探るために産学官がフラットな立場で議論を進めてほしい。
■人口減少社会に対峙して
日本の人口が40年後(2065年)には9000万人を割り込み、高齢化率が約4割、生産年齢人口が5割にまで落ち込むと予想されている中、少数のヒトを前提とした制度設計・技術開発を産官学で連携して取り組むことは不可欠な要素となる。
長期的な視点で見れば、危険な箇所へのヒトの介在を極力避けるために、下水道システムは自動・無人で管理運営が行えるものへと進化が望まれ、DXはそれを加速化するツールであろう。一方で全てを完全に無人化することは現実的ではなく、担い手確保と育成はこれからも継続しなければならない。
来年の干支は丙午(ひのえうま)。丙は、十干の3番目で「火」の要素を持ち、太陽や明るさ、生命のエネルギーを表す。そして午は、駿足を持ち、独立心が強く、また人を助けてくれる存在でもある。そのため丙午の年は、「燃え盛るようなエネルギーで道を切り拓く」年になると言われている。人口減少社会の時代背景の下ではあるが、AIをはじめとする技術革新が進む時代に生まれ育ってきた若手人材が社会で活躍する時代において、新たなチャレンジができるブルーオーシャンが眼前に広がっているという将来性・拡張性・柔軟性こそが、下水道の魅力である。新しい年が、「他のインフラ分野にはない下水道イノベーション」を打ち出し、明るい未来へとつながる道を切り拓く1年になることを願う。