AI活用の環境整備 国交省、処理場対象に検討会設置 マイクリップに追加
成果は指針類へ反映
国土交通省下水道部は6月27日、AIによる下水処理場運転操作デジタルトランスフォーメーション(DX)検討会を設置し、初会合を開いた。下水処理場でのAI活用に向けた環境整備を進める。国や自治体が手掛けている実証研究をモデルケースに、AIを活用する上で必要となるデータの種類や、その収集方法などを検証する。2カ年にわたって設置し、検討成果をガイドラインとして取りまとめるほか、設計や維持管理に関連する指針類へと反映していく。
座長には加藤裕之東京大学工学系研究科都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室特任准教授が就いた。
検討会では水処理を対象にAIの活用について幅広く取り扱う。AIの導入によって得られるメリットや、下水道事業に馴染む導入モデル、必要となる環境整備などを中心に議論を進める。政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、下水道事業でも一層の省エネ化が求められる中、AIの活用を後押しすることでより質の高い運転操作を目指す。
AIの活用に向けて自治体と民間企業とで行う実証研究5件(▽AIを活用した省エネと水質改善を両立する制御技術の開発〈東京都、三菱電機〉▽下水処理へのAI活用に係る共同研究〈埼玉県、埼玉県下水道公社①三菱商事、水ing②メタウォーター③日立製作所〉▽AIを適用した下水処理プロセスの運転ガイダンスおよび制御の実証研究〈北九州市、安川オートメーション・ドライブ〉)と、昨年度に下水道革新的技術実証事業(BーDASH)で採択された「AIを活用した下水処理場運転操作の先進的支援技術に関する実証事業」(明電舎、NJS、広島市、船橋市共同研究体)を加えた計6件をモデルケースにし、ばっ気風量や流量、水質など運転操作と関わりが深いデータを収集し、検討会の議論に反映していく。
収集したデータの形式についても、複数の企業同士でやり取りができるように、出力の標準化についても検討を深める。連携がしやすい土壌を整えることで、下水道のイノベーションを高める狙いもある。
また施設面の検討として、系列ごとに送風機を設ける、送風機を小分けにするなどアナログ型の管理から、デジタル型の管理へと移行するに当たって、望ましい施設整備も検討する。
AIを活用するための発注方法についても検討を進める。大都市など技術力のある自治体が自らAIの活用をマネジメントするインハウス型、自治体の委託を受けた事業者側がAIのマネジメントを担うアウトソース型の二つのAI導入モデルを想定し、下水道事業に馴染む形式を検討する。
検討の成果は「AIによる水処理運転操作DXに関するビジョン・導入ガイドライン」として取りまとめる。
このほか、施設整備に関連したものは「下水道施設計画・設計指針と解説」に、データの収集方法に関連したものは「下水道維持管理指針」、発注方式に関連したものは「処理場等包括的民間委託導入ガイドライン」にそれぞれ反映していく。
会合の冒頭あいさつに立った奥原崇下水道企画課長(当時)は、「AIによる水処理の運転操作については、下水道のDXの中核を成すもの。BーDASHでの実証事業や地方公共団体での実証研究が進められている。これらの技術を速やかに普及展開したい。AI導入の効果の見える化、導入のあり方、実効性のある支援策を整えていきたい」と述べた。
また加藤座長は、検討会のポイントとしてAI導入に向けた水平展開の方法論、計画・設計・管理・建設を有機的に結び付けていく視点、異分野との連携を通じた地域の循環型経済への貢献の3点を挙げ、「透明性が第一にあり、そして多数の機関との連携、さらに人とAIとの連携協働も重要な視点になる。下水道のDXの推進に向けて成果をまとめていきたい」と意気込んだ。
【委員の構成】加藤裕之・東京大学工学系研究科都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室特任准教授(座長)▽三田村浩昭・東京都下水道局計画調整部技術開発課長▽斎藤朋之・埼玉県下水道公社荒川左岸南部支社運転管理担当部長▽福永泰之・北九州市上下水道局下水道部長▽糸川浩紀・日本下水道事業団技術開発室総括主任研究員▽江原佳男・日本下水道協会技術部長▽堅田智洋・日本下水道施設業協会技術部長▽大森康弘・日本下水道施設管理業協会理事兼技術安全委員会技術部会長▽重村浩之・国土技術政策総合研究所下水道研究部下水処理研究室長