下水熱でワサビ栽培 新潟県・長岡技科大ら5者 マイクリップに追加
地域活性化の一助に期待感
新潟県と長岡技術科学大学、東亜グラウト工業、明電舎、大原鉄工所の産官学5者は2日、新潟市内の県流域下水道西川浄化センターで「官民連携による下水道資源・エネルギーを活かした植物栽培技術の研究報告会」を開催した。下水熱を利用しワサビ栽培を試みている実験設備を公開するとともに、プロジェクトの進捗状況を紹介した。
実験設備は、処理水から回収した冷温熱を用いて、冷・温水を製造するヒートポンプ、バイオガスからCO2を回収する膜分離装置、設備へ電力と同時にCO2を供給するバイオガス発電機、植物栽培を行うビニールハウス2棟から構成。
冷室ハウスでは、昨年3月に18カ月で栽培可能な「正緑」約250株、24カ月を要する「真妻」約350株のワサビ計600株を植栽。塩素を除去した水道水を下水熱で冷却し、12~15度の水温を維持。1株当たり毎分150ccを散水した後、再び冷却することで栽培水を捨てない「循環栽培」を実現。使用する水量の節水効果に加え、生育に必要なミネラル成分や微量栄養塩の追肥による促進栽培が期待できる。
近日中に全株の収穫を行う予定だが、9月末に行われた「正緑」2株の試験収穫では、ワサビ農園で直売されているLLサイズに値するワサビが収穫できた。また、鉄分が過剰な栽培水で生育すると根茎断面に黒い円状模様が入る「黒ずみ病」も見られなかった。
報告会冒頭、同県土木部都市局の大坂剛局長が「県として下水道資源・エネルギーの有効活用に向けて、引き続きこのような取組みを進めていくとともに、下水処理場で発生する資源を民間事業者含めた多くの方に利用してもらえるような環境整備を目指していく」とあいさつ。
来賓として、国土交通省下水道部下水道企画課下水道国際・技術室の津森ジュン室長が「国交省では、すでに整備された下水道施設をより一層有効活用し、下水道事業を魅力溢れる事業に刷新し、地球温暖化防止や循環型社会形成への貢献、地域の活力向上を目指す下水道リノベーションを推進している。この技術は他の地域でも、それぞれの地域特性に応じて水平展開が可能ではないかと期待している」、日本下水道協会の岡久宏史理事長が「私にとっても非常に思い入れがあるプロジェクト。この成果をしっかり活かして、このワサビが新潟の特産の一つになるくらい良いビジネスに育てていただければ」とあいさつした。
その後、長岡技科大の姫野修司准教授が研究成果について報告を行い、参加者に対して実験施設を公開。ワサビ収穫のデモンストレーションや試食が行われた。
姫野准教授は「ワサビは生育に2年がかかるため、失敗が許されないというプレッシャーもあった。約4年半、日々チャレンジだった」と語った上で「試験収穫したワサビはしっかりとした辛みがあり、香りも強くいいワサビになったと言える。これから収穫予定のワサビ約600株は検証に使うとともに、興味を持った方に実物を提供して次の展開につなげていければ」と期待を込めた。
同センターでは平成28年度から、国土交通省のGAIAや下水道応用研究などの支援を受け、センター敷地内の実験設備において、冷室ハウスではワサビのほか、梅花藻やイチゴ、温室ハウスでは熱帯植物やバジルなどを栽培してきた。